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第196話 失敗から学ぶ

小児科医のつぶやき|第196話 失敗から学ぶ

 梅雨も明け、本格的な夏が到来しましたね。同時にパリオリンピックも開幕し、しばらくは寝不足の日が続いていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。特に個人的に注目しているのがバスケット。今回男子バスケットチームのサポートメンバーに選ばれた佐々木選手は元ヴォルターズの選手で、熊本を離れる際にはユニホームとシューズをプレゼントしてくれましたので(院内に飾っています)、出場は厳しいかもしれませんが頑張って応援したいと思います。それ以外にもスポーツが大好きな自分にとってはどれも見たい競技ばかりで、また夏の甲子園も始まりますので8月はテレビの前から離れられない日々が続きそうです。    


 オリンピックや甲子園に出場する選手は、優秀な選手ばかりだと思いますが、そこに至るまでには一言では語り尽くせない多くの努力があったのは間違いないことでしょう。もちろんいい事ばかりではなく、敗戦という屈辱を味わったこともたくさんあったのだろうと思います。しかしそこから這い上がってきた選手というのは、それまで以上に人間的にも強くなって戻ってきているように思います。成功体験よりも失敗したことから学ぶことのほうが多いのではないでしょうか。プロ野球の監督だった野村克也さんの名言に、「失敗と書いて成功と読む」というのがあります。とても共感する言葉で、多くの失敗が成功に導くのだろうと思います。ですので、失敗は成功のためには何度も経験したほうがいいのかもしれません。


 しかしながら、失敗はしないに越したことはありません。特に我々の仕事は失敗が許されない世界です。場合によっては命に直結することもありますので、失敗は本来はやってはいけません。とはいえ、これまでにも誤診をしたことは何度かあります。診断が難しいのは虫垂炎で、胃腸炎と間違ってしまったことは多くの小児科医が経験することです。他にも胃腸炎と思っていたら心筋炎だったとか、紫斑病という病気だと思っていたら血液の病気だったとか、自分の未熟さを感じることがたくさんありました。その都度子どもたちから多くのことを学ばせて頂き、それがのちの診療に生かされています。言い換えれば子どもたちは自分にとっては「小さな先生」なのかもしれません。恐らくこれからも子どもたちには多くのことを学ばせてもらうのだろうと思います。  


 自分の人生を振り返ってみると、大学受験には2度失敗しました。1年目の失敗から、がむしゃらに勉強をやるだけではダメだというのを学びました。そして2年目は適当に息抜きをして、気分転換もやりました。受験の失敗によって合格するにはどうすればいいのかというのを学んだように思います。もちろん気持ち的には辛かったのですが、少々のことではへこたれない精神力は身についたように思います。失敗が自分を人間的にも一回りも二回りも大きくしてくれたのは間違いないので、浪人生活は人生にとっては大きな財産になったのではないでしょうか。    


 いづれにせよ、失敗はしないに越したことはありません。普通は失敗していいことはまずないと思います。ただ、失敗のない人生なんて味気ないというのも、これまた一理あるように思います。取り返しのつかない失敗は避けなければなりませんが、取り戻せる失敗はきっと人生を豊かなものにしてくれるのではないでしょうか。オリンピックにも高校野球にも数々のドラマが生まれるに違いありません。選手一人一人にそれぞれの人生があり、多くの失敗を経て現在があるのだと思えば、たとえ結果が望むものではなかったとしても心から拍手を送りたいと思います。  



【令和6年8月】
よしもと小児科 吉本寿美

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