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第134話 再び「かぜ」について

小児科医のつぶやき|第134話 再び「かぜ」について

 急に夏が来たかのような暑さになってきました。さすが熊本ですね。春秋なんかあっという間に過ぎていってしまうのですから。ずっと熊本に住んでいても、なかなか慣れません。これからしばらくは地獄のような暑さと戦わなくてはいけないかと思うとうんざりします。このように気温が上がってくると、小児科医は一気に時間を持て余してしまいます。流行する病気も手足口病やヘルパンギーナといった、熱も続かず薬も必要ない「夏かぜ」と言われるものが流行る程度です。ではいったい「かぜ」とは何なのかということを今回改めて考えてみたいと思います。  


 かぜというのはいわゆる「かぜ症候群」であり、症状は咳、鼻水、発熱などが一般的です。それに対して小児科医は、座薬などの解熱剤や「かぜ薬」と言われる鎮咳剤、去痰剤、鼻閉に対する内服などを処方します。ただし、飲んだから直ぐに症状が改善するわけでもなく、特に登園されているお子さんは年中咳や鼻水といった症状が続きます。何とかして欲しいと園のほうから受診を勧められますが、飲んでも劇的に改善するわけでもなく、果ては園の先生から「耳鼻科に行ったほうが」と言われる始末。そこでだいたい中耳炎と言われて抗生剤、咳がひどいのでということでシールのような気管支拡張剤が処方されるというのがおおよその流れです。個人的には中耳炎に簡単に最初から抗生剤を処方するのは反対です。使わなくても治っていくケースがかなり多いので。  


 では、かぜはどう対処するか。まず、鼻閉については鼻腔吸引をやるのが効果的だと思います。後鼻漏といって鼻水が横になると口腔に流れ込む現象がみられ、それが咳の原因になっていることも少なくありません。咳がひどければ上体を起こすのもいいかもしれません。咳については、咳を止めるのはかえって悪化するので本来は咳をたくさんやって、痰を出すのが有効です。ただし、小さいお子さんは咳払いをすることが出来ませんので、咳き込んで吐いてしまうことも多いようです。でも、咳き込み嘔吐により痰の排出が促進され、すやすやと眠れるようになるものです。と考えると、「咳止め」という薬は出さないというのがわかっていただけるのではないでしょうか。


 お子さんが辛そうにしているので、早く楽にしてあげたいと思うのは当然のことだと思います。ただ、薬を飲んだから直ぐに治るというわけではなく、薬はあくまでも補助的な役割をしているに過ぎないということは、どうか理解して欲しいと思います。咳をして痰を出し、鼻をかんで鼻汁を排出するのはかぜを治そうとしている人間の反射であり、治すのはあくまでも人間であり薬は補助的な役割でしかないということです。ですから、必要最低限の薬で十分なはずなのですが、それだと不安になる保護者の皆さんの心理状態も理解はできます。ただ、せっかく受診したのだからせめて薬くらいは貰ってかえらないといけないと思っていらっしゃるケースも多いのではないでしょうか。医者も、せっかく来ていただいたので何も持たせずに帰らせるのは悪いと思って、必要もない薬を出していることはないでしょうか。     


 ご存知のように、当院では抗生剤の処方はかなり少なくなっています。発熱だけで検査もせず抗生剤を処方することは絶対にありません。いわゆるかぜ薬についても、量は少なくなっています。お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、「ペリアクチン」という抗ヒスタミン剤を処方から省きました。それでも、以前に比べ治りが遅くなったとか悪化しやすくなったということもありません。ここで改めて、みなさんに「かぜ」についての診療と治療について考えていただけたらと思っています。少なくとも、色のついた鼻汁や軽い中耳炎に抗生剤は最初からは不要です。なんでもかんでも薬という考えからの脱却を実現したいものです。  



【令和元年 6月】
よしもと小児科 吉本寿美

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