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第143話 誤診もします

小児科医のつぶやき|第143話 誤診もします

 いきなりのタイトルでびっくりされた方もいらっしゃるかと思います。タイトルの通りで、誤診といわれることは今でも時々経験します。やってはいけないことですが、はじめに診察した時の診断があとから間違っていたというのは、医者であれば誰もが経験することです。さすがに人命に関わるようなミスをやってはいけませんが、一生懸命やっていても残念ながらある程度は起きていまします。   


 先日も、前日に診察したお子さんの保護者の方からお叱りの電話をいただきました。自分はお子さんが元気だったので、インフルエンザではないだろうと判断しました。ところがその夜に救急病院でインフルエンザと診断されたとのこと。「見た目で判断しないでください」と言われましたが、何でもかんでも検査すればいいというものでもないと自分は思っています。必要と思えば検査はしますが、発熱だけで検査することを普通はしません。周囲の流行状況、感冒症状があるのかなどでインフルエンザを疑って検査を行います。だた、インフルエンザはウイルス感染ですから対処療法で治っていく病気です。抗ウイルス薬を使わなくても自然治癒が期待できるので、あまりにも検査、検査と言われて受診されるお子さんが多いのに困っています。特に登園しているお子さんが検査を指示されて受診されますが、その判断を下すのはあくまでも医者です。この時期は本当に医者泣かせです。    


 当然、他のクリニックで診断がつかなくて最終的に当院で診断がつくということもこれまたよくあることです。それまでにいろいろ検査をやっていただいたお陰で、病気を絞ることが出来るのです。いわゆる「後出しじゃんけん」みたいなもので、後から診察した方が有利なことは医者なら誰もが経験することです。ですから、それまで診察された医者が誤診をしたということになるのですが、とても誤診とは言えません。ですから、どうか同じ先生を信じて最後まで診察を受けて欲しいと思います。  


 それから、小児科医なら誰もが1回は経験したことがあることなのですが、急性虫垂炎の診断を誤ることです。この場合、発熱と腹痛が主な症状ですが、胃腸炎が流行している時に受診されたら胃腸炎という診断で整腸剤を処方して経過観察することがよくあります。その後腹痛が治らずに他のクリニックを受診して、虫垂炎の診断がついた場合は最初の医者は誤診をしたということになります。本来は腹痛の場合には鑑別診断として虫垂炎を説明すべきなのかもしれませんが、腹痛の場合にはあれもこれも考えられますと説明すれば逆に心配させてしまう恐れもあるため、どこまで話すかというのはいつも悩みどころです。    


 最近はいろいろな検査キットが登場したお陰で、きちんとした診断と治療を行えるようになってきました。それに伴って抗生剤の使用頻度も少なくなってきたのは、非常に喜ばしいことです。ただ、その反面あまりにも検査が優先されて、保育園や幼稚園から「検査をして来て欲しい」と言われるケースも非常に増えました。一方、医者の側も検査にばかり気を取られて、患者自体を診ていないと言われる状況も出てきました。検査が全てではないということを、診察を受ける側も医者の側も改めて認識する必要があると思います。      


 ここにきて、コロナウイルス感染症も関心事となっています。今のところはPCRでしか診断できない状況です。ただ似たような症状を呈する病気は山ほどありますので、これをきちんと診断出来なくても仕方ないと思います。それを誤診と言われたら、もう医者としては何もすることが出来ません。やろうとして誤診している医者なんて一人もいませんので、どうか最初の診断が違ったとしてもある程度は寛容な気持ちで接していただければと思います。医者を辞めるまで日々勉強です。



【令和2年 3月】
よしもと小児科 吉本寿美

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