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第38話 どこまで伝えるか

小児科医のつぶやき|第38話 どこまで伝えるか

やっと気候もよくなって、しばらくは我々小児科医にとっても平穏な日々が続く時期になりました。これから夏の病気は手足口病や、ヘルパンギーナなどのウイルス感染症が多くなり、抗生剤をはじめ投薬する機会が少なくなります。ウイルス感染症が多いため、まあそう心配することもないでしょうと説明することが多いのですが、困ったことに稀ですが手足口病は脳炎を引き起こし死亡するケースもあります。これは確か10年程前に、香港から論文が出た事で有名になったと記憶しています。まあ、こんなこともあるよね~と思っていたところ、大学病院にいる際に同じケースに遭遇しました。この時も、残念ながらこの患者さんは亡くなってしまい、手足口病は怖い病気なのだなと改めて思い知らされた記憶があります。


では、全ての保護者の方に手足口病は脳炎を起こす怖い病気ですよと説明するかと言われれば、そこまでは話をしていないのが現実です。脳炎を起こす頻度がそう多くはないというのが大きな理由なのですが、みんなにそのように説明して不安を煽るのもどうかという思いもあります。しかし、もしも起こってしまったら「たいした事はない。大丈夫と言われた」となってしまうこともあるのかもしれません。どこまで話をするのかというのは難しい問題です。


先日、同様のケースが当院受診のお子さんでも起こりました。結局は突発性発疹でしたが、突発性発疹は多くのお子さんが経験する病気です。特別心配する必要はない病気ではあるのですが、稀に脳炎を起こす事があります。原因はHHV-6というウイルスによるものです。このお子さんは、発熱が続き採血した結果、たぶん突発性発疹でしょうねと説明して帰宅された数日後にけいれんが止まらなくなり、救急病院を受診され集中治療を受ける事になったようです。担当医の後輩に連絡したところ、結局は突発性発疹による脳炎であったとのこと。幸い、早い受診であったため何とか後遺症は残さずにいくのはないだろうかというコメントでした。脳炎の事まで話しておくべきだったかどうか、考えさせられました。


いろんな病気には、少なからず合併症というのがあります。頻度の高いものから、稀なものまで様々です。教科書をめくれば、1行程度記載されているものもあります。そのようなことを、どの程度まで説明するのかはいつも悩みの種です。説明不足でもいけないし、あれやこれや説明して不安だけを与えてしまうのもどうかと思います。保護者の方も、心配性のかたもいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃいますし、一様に説明するのは得策ではありません。


ある程度のことはきちんと説明しているつもりではありますが、不足しているところもあるかもしれません。不安な場合は聞いていただければわかる範囲でお答えします。出来るだけ安心して帰っていただくのがベストと思いますので、どこまで伝えればいいのか、これからもずっと悩むところではあります。


【2011年6月】
よしもと小児科 吉本寿美

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