第95話 検査について
先月はインフルエンザが流行しましたが、ピークは過ぎたようです。当院では幸い重症のお子さんはいなかったように思います。あとはB型がどこまで流行するかですが、ワクチンが4価になったためあまり流行しなければいいと思っております。今月いっぱいは注意が必要ですね。
さてこの時期になるといつものことですが、毎年検査については頭を悩ませます。保護者の方も最近はよく勉強されており、インフルエンザについては発熱後早期の検査は陰性に出るという事をご存知ですが、保育園や学校から「検査をしてもらうように」と言われて受診されるケースも少なくありません。集団生活で流行して欲しくないから、早く診断して欲しいという気持ちは十分理解できます。ですが、不要な検査をされる子どもはたまったものじゃありません。たまには発熱後早期に検査で陽性に出るケースもありますが、おおよその目安は発熱後半日程度を経過してから検査をするというのが一般的です。少し痛みを伴う検査ですので、出来れば1回の検査で白黒はっきりさせたいものではあります。ですので、早くに受診された場合は検査をお断りする場合も少なくはありません。
また最近は少なくなってきましたが、RSウイルス感染症の検査もすごく悩みます。先月も書いたように、この検査は全くのサービスでおこなっている検査ですので、すればするほどクリニックは赤字になります。なので、収益だけを考えればやらないほうがいいのですが、不要な抗生剤を出したくないので積極的に検査を行っています。この検査も園から検査をやって来なさいと言われるケースが冬場は増えます。ですが、なんでも検査すればいいということではないと思います。この病気は陽性に出ても特効薬なんてないのですから、なんとも厄介な病気です。
近年では、検査データだけ見て患者を「診ない」ということが問題視されています。診察をするということは、検査をたくさんすればいいという訳でもありません。本来は聴診器1本で診断出来ればそれに越したことはないのですが、未熟な僕はまだまだその領域には達しておりません。検査結果は問題ないのに、かなり状態の悪いお子さんもいれば、結果がかなり悪いけど元気なお子さんというケースもよく経験することです。あくまでも検査結果は結果であって、一番重要なのは目の前のお子さんがどうなのかということだと思います。この事は自分も改めて気をつけなくてはと思うところではあります。
振り返ってみれば、医者になりたての頃はかなり不要な検査をやっていたように思います。それは自分に自信がなくて不安だったためです。今だとやらないような検査もいろいろやって、過剰診療になっていたことが多かったようにも思います。いろいろ経験をすると、検査や投薬も徐々に減少してきます。発熱でも簡単に抗生剤を出さないというのは、これまでの様々な経験に基づくものです。当院の基本方針は3日目の発熱のお子さんは、原因不明の場合には採血を行うというのをルーティンにしておりますが、結果を見てハッとすることもたまにはあります。
最近はいろいろな病気の検査キットが発売され、的確な診断と治療が出来るようになりました。おかげで、高熱でも抗生剤が不要だと言い切ることが出来るケースも増えてきました。これは非常に喜ばしいことです。ただ、検査以前に、目の前のお子さんの状態はどうなのかというのをいつも忘れてはいけません。検査結果はあくまでも補助的なもので、まずは聴診や触診でお子さんの状態を探るのが先です。検査結果ばかりに振り回されるようなことがないよう、これからの診療を行っていかなくてはと改めて思いました。
【2016年 3 月】
よしもと小児科 吉本寿美